本作品は、1990年代に南米のペルーの日本大使館で実際に起きた事件が基となっています。ペルーに関して、また在ペルー日本大使公邸人質事件に関しては、こちら(ペルー共和国)をご覧ください。
テロリストを扱った作品なので、決して明るい作品ではありません。タイトルの「ベルカント」はイタリア語で「素晴らしい(美しい)歌(うこと)」という意味で、主人公が歌う歌が重要な役割となっています。芸術でテロはなくせないかもしれませんが、心に響く歌は聴くものに何かを訴える力があると思います。同じくスポーツでテロはなくせないかもしれませんが、テロリストも人質もなくみんなでサッカーをすることで打ち解けられるものがあるかもしれません。
2019年に刈谷日劇で上映された映画にテロリストが出てくる作品として、『世界の涯ての鼓動』で過激派が医療を提供し、水の必要性を求めているという貧しい地域の現状のことを、『ホテルムンバイ』では、泣きながら家族に電話で愛していると伝えるテロの実行犯の置かれている厳しい側面が垣間見れました。本作品は、その2作品よりさらにテロリスト側の背景や心境に踏み込んで描かれていて、これまで知識や芸術に触れることのなかった貧しい地方の出身のテロリストたちが、高教育を受けた大使館の人や民間人と触れあうことで人質に尊敬や親しみをもつ「リマ症候群」状態を描いています。
この「リマ症候群」というのは、実際にペルーのリマにある日本大使公邸人質事件で起きたことから名付けられたものです。在ペルー日本大使公邸人質事件に関しては、こちら(世界一周 ペルー共和国)をご覧ください。
このような映画がテロを撲滅することもないし、直接的に何かの役に立つことはないかもしれませんが、少なくとも現代において、私たちがいるこの世界でこのような現実があるということを知ること、知ることで世界の見方を変えること、変えることで誰かを何かを変える力になるといいなと思います。
『世界の涯ての鼓動』に関してソマリアのページで、アフガニスタンの砂漠の地を緑化して多くの難民を救うことで一人でも多くの人がテロ組織に頼らなくていい土壌を作るための活動を行なっている中村哲さんのことを書きましたが、本当に悲しいことに今月(2019年12月4日に)亡くなりました。殺された中村さんは、中村さんが殺されたことでアフガニスタンを憎まないで欲しい、アフガニスタンに行なっていた支援をやめないで欲しいというような方だと思います。憎しみの連鎖を断ち切り、このような中村さんに襲った悲劇がまた起こらないように、そしてこのような悲劇を起こす背景や原因となることが一日も早くなくなるような世界になって欲しいと願います。
本作品で「ベルカント(美しい歌)」が人の心に人であることの大切さを訴えたように、刈谷日劇でもお客様に(感動や笑いや救いや問題提起など)大切なことを訴えることのできる映画を届けていきたい考えています。2020年もどうぞ刈谷日劇をよろしくお願いいたします。