あなたの名前を呼べたなら
Sir
スクリーン 2
G
9/21 - 9/26:15:30-17:10
上映開始日:9/21
上映終了日:10/3
インド=フランス
監督:ロヘナ・ゲラ
ティロタマ・ショーム、ビベーク・ゴーンバル
オフィシャルサイト
2017 Inkpot Films Private Limited, India

あなたの名前を呼べたなら

いろいろと「インド映画」らしくないインド映画です。まず、話の途中で突然主人公が歌って踊りだしたり、、、しません。ドラマチックに奇想天外なストーリが展開、、、しません。3時間とかの長い映画、、、でもありません。監督は男性、、、ではありません。そして、ストーリーは身分を超えた恋愛ものなのですが、これは現実のインドではありえません。

インドは、いろんな分野で女性が活躍する一方で、女性軽視も根強く残っていて、ボリウッドも例に違わず女性の監督はほぼいません。そんな中、アメリカの大学に留学したロヘナ・ゲラは、インドに帰国後はボリウッドで脚本家として活躍します。監督になる夢をフランス人の夫の協力を得て少しずつ実現し、長編監督作品の1作目となる『あなたの名前を呼べたなら』までたどり着きました。インドという社会で生きてきた女性監督自身の経験が、苦境にありながら夢を追い求める主人公ラトナに反映されていると思います。

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映画はインドの大都市ムンバイで、富裕層の男性と、その男性の家で住み込みで働くメイドを取り巻く環境を描きだします。インドの貧富の差はかなりあり、都会の富裕層(上流階級)の人たちの生活は、欧米や私たち一般的な日本人の生活と変わりありません。高層タワーのマンションにおしゃれな家具、エアコンやテレビ、その他の家電などなんでもあり、洋服やライフスタイルも西洋的に近いです。

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一方で、下層階級に位置するラトナ。田舎の出身で、結婚4ヶ月で未亡人となり、夫はいないのに一生嫁いだ家に縛られます。都会ではなかり西洋に近い価値観になっているものの、田舎ではまだまだ法的には認められていないのにも関わらず、その土地独特の風習が根強く残ります。カースト制度は廃止されましたが、それは表面上だけであり、人々の中にははっきりと「差」はあります。インドの人は、肌の色や話す英語、身につけているものなどで(元のカースト制度のどの階級に属しているのか)わかるといいます。階級が高くなればなるほど、下の階級の人との恋愛どころか交流はあり得ません。

ラトナに「Sir(旦那さま)」と呼ばれるアシュヴィンは、家族とも友達とも英語で会話しますが、ラトナとはヒンディー語で会話しています。ラトナは英語は全くわからないみたいで、アシュヴィンに「You are brave(君は勇気があるね)」と言われても「brave」の意味がわからない、というシーンもあります。(その辺り、字幕ではヒンディー語と英語のどちらで会話しているのかの区別がなかったのでわかりづらいかもしれません。)映画の原題『Sir(旦那さま)』、邦題の『あなたの名前を呼べたなら』は後半いきてきます。

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物語は、静かで淡々と進みます。会話に頼ることなく互いの心境などが描かれているところは、背景の色の美しさに伴って、とても心に染み入りました。インドの持つ力強いカラフルさに、フランスのスタイリッシュな色使いがミックスされた、とてもセンスのよい色使いでした。ラトナの持つ静かな強さ、アシュヴィンの持つ柔らかな優しさ。会話ではなく空気で伝わるいない間の相手の時間。ふたりがいる空間の居心地の良さ。互いに尊重しあう思いやりのある態度。だけれどもふたりの間にある「壁」。そんな関係や心境を丁寧に描写した、インドの階級を題材にしたフランス映画のような感じの恋愛映画です。

夢を諦めないこと、愛することを恐れないこと。