岩手県大槌町に実存する電話ボックス<風の電話>
その電話に、電話線はつながっていない。しかし、東日本大震災以降、3万人を超える人々が、この場所を訪れている。どうしても話したい大切な人がいる。そこにいるのが当たり前だった家族に、さよならを伝えたい──。そんな悲しみを抱え生きる人々に、静かに寄り添う映画が生まれようとしている。
大槌町で東日本大震災に遭った高校生のハル。広島県にいる叔母の家に身を寄せているが、気持ちは大槌町に向いていた。故郷を目指し、ヒッチハイクを始めたハル。様々な人と出会い、別れ、共に旅をしていく。ハルの目には、どんな景色が映っていくのだろうか。
2011年に、大槌町在住のガーデンデザイナー・佐々木格さんが自宅の庭に設置した〈風の電話〉。死別した従兄弟ともう一度話したいという思いから誕生したその電話は、「天国に繋がる電話」として人々に広まり、今も多くの人の来訪を受け入れている。
映画『風の電話』は、この電話をモチーフにした初めての映像作品である。難題と思われたこのテーマに挑戦したのは、『M/OTHER』、『不完全な二人』の諏訪敦彦監督。重要な主人公ハルを、注目の女優モトーラ世理奈が演じ、西島秀俊、西田敏行、三浦友和ら日本を代表する名優たちが、彼女の熱演を温かく包む。
現場の空気感まで切り取り、ドキュメンタリーのように俳優たちの動きを映していく、諏訪監督ならではの手法で制作された本作。共に旅をしたような、唯一無二の映画体験が見る人の人生にそっと刻まれる。